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映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」感想

  • 2014年、イギリス・アメリ
  • 監督:モルテン・ティルドゥム
  • 主演:ベネディクト・カンバーバッチキーラ・ナイトレイマシュー・グードマーク・ストロング、アレン・リーチ、チャールズ・ダンスロリー・キニア、アレックス・ロウザー

  • あらすじ:
    1952年。ケンブリッジ大学の数学教授チューリングの自宅に泥棒が入った。チューリングの態度に不審なものを感じたノック刑事は彼の裏を取ろうとするが、第二次世界大戦中の彼の軍歴は一切残されていなかった。ノックは取り調べ室でチューリングと向かい合う…。
    1939年、ナチス・ドイツと戦争状態に入ったイギリスは、若き天才数学者チューリングほか数名を集め、ドイツが誇る強固な暗号「エニグマ」を解読する極秘プロジェクトに従わせた。仲間と打ち解けようとせず、一人で解読マシンを開発しようとするチューリングに、周囲は敵意すら見せる。しかし、公募で招き入れた女性ジョーンの理解と助力により、仲間内の溝は埋まる。難攻不落かと思われたエニグマは、ふとしたきっかけでついに解読できた。しかし…。

  • 感想:
    「コンピューターの父」とも呼ばれるアラン・チューリングを主人公にし、一部脚色を加えた映画である。人力で計算すると解読に2000万年かかるエニグマギリシャ語で「なぞなぞ」の意味)。これを一瞬で解くマシンの開発に、チューリングは没頭した。人の言葉の裏が読めない彼は当初チームで孤立するが、自分のマシンに絶対の自信を持っていたこととジョーンからの親切な助言もあって、チームは次第に彼のマシン開発に集中するようになる。
    海軍中佐に言い渡された期限ぎりぎりでの解読成功は、スリリングで爽快だった。しかし、解読に成功しても直ちに軍に報告するわけにはいかなかった。英米の船を狙うドイツの潜水艦Uボートを、もし突然空襲で魔法のように沈めてしまったら、エニグマが破られたことを相手に悟られてしまうからである。もう一人の上官で情報部MI6のエージェントであるミンギスをチューリングは頼る。エニグマ解読成功は自国にも他国にも秘密にし、マシンから得られたドイツ軍の情報は統計的に処理して、味方のどこを犠牲にするか救うかを選択し、戦況を有利に導くこと。そのためのニセ情報を流して欲しい、と頼むチューリングとジョーン。ミンギスは言う、「私はこんなことはめったに言わないが、君は私の期待通りの男だ」。この第2のプロジェクトには「ウルトラ」という名が付けられ、MI6が作った虚実入り混じった情報が内外に意図的に流され、ドイツに占領された諸外国の解放や、歴史的な「ノルマンディー上陸作戦」の成功を導いた。のちの歴史家の考察では、チューリングの働きは、第二次世界大戦終結を2年以上早め、1400万人の命を救った、とみられている。
    しかし「義理人情を重んじる」日本人の一人としては、こんな手を血に染めるような諜報活動はとてもじゃないが出来ないな、と思った。さすが一時は世界の四分の一を支配した大英帝国である。
    マシンの名は「クリストファー」。チューリングが寄宿学校生活をしていた頃の唯一の友人、いや初恋の相手の名前である。実はチューリングは同性愛者で、当時の英国では法律により投獄されるかホルモン投与による治療を受けるしか生きる道はなかった。戦後はクリストファーの改良に没頭していたチューリング。1952年、買った男娼が自宅に泥棒に入ったことで、彼の性的嗜好が警察に明るみに出てしまう。担当したノック刑事は、極秘であるエニグマとウルトラの話を聞かされ、絶句する。チューリングは英雄か、犯罪者か。わいせつ罪で逮捕された彼を報じる新聞記事に向けるノックの視線は複雑であった。
    チューリングはクリストファーとい続けられるためにホルモン投与を受ける方を選び、1954年に41歳で自殺した。エニグマ解読プロジェクトの事実が英国政府から公にされたのは、戦争終結から実に50年以上も経ってからのことであり、エリザベス女王は2013年、チューリングに死後恩赦を与え彼の業績を称えた。同性愛を罪としていた法律は1967年まで続き、犯罪者として処分された国民はのべ4万9000人に及んだという。
    近年「キャロル」(2015年)や「ムーンライト」(2017年)など、同性愛を肯定的に扱った映画が評価されている。「誰も予想さえしなかった人物が、誰も想像しなかった偉業を成し遂げることだってある」。若くして亡くなったクリストファー少年の言葉が、作中で3度繰り返される。対人関係を築くのが不得手で同性愛者であるという秘密も抱えていたチューリングに限らず、「普通でない」ことを恐れず自由に生きられる社会が発展するといいと思う。
    なお、「イミテーション・ゲーム」とは現在「チューリング・テスト」として知られるもので、「審判者が対象に向かっていくつかの質問をし、返ってきた答えが人間ともマシンとも判断できなければ、その対象は人間である」という思考実験である。
    脚本を担当したグレアム・ムーアは、第87回(2015年)アカデミー賞で脚色賞を受賞した。「WIRED」誌の記事によると、ムーアはティーンエイジャーの頃からチューリングに関する事柄に取りつかれるようになり、この作品が映画化されると決まった際は、無償で脚本を書くと申し出たそうである。

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