estwald2002のブログ

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映画「グリーンブック」感想

  • 2018年、アメリ
  • 監督:ピーター・ファレリー
  • 主な出演:ビゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
  • 受賞歴:
  • あらすじ:
    1962年、ニューヨーク。粗野で無教養だが愛妻家でハッタリがお得意のトニーは、高級ナイトクラブで用心棒として働いていた。クラブが改装工事に入ったため失業したところに「うまい儲け話」が入る。黒人のピアニスト、ドクター・シャーリーが南部へのコンサートツアーに出かける際のドライバー兼身の回りの世話係にならないか、というのだ。黒人に偏見を持っていたトニーは一度は断るが、「君の言い値で雇う」というドクの申し出を受けることにする。トニーががさつな雑談をするたびにそれを諫めるドクという珍道中。ドクのピアノは天才的で、各地のコンサートで拍手喝采を浴びる。水と油の関係に思えた二人も徐々に分かり合えるようになっていく。しかし深南部へと入るにつれドクへの黒人差別はあからさまになり…。

  • 感想:

    これは実話を元にした作品で、脚本にはトニーの実の息子(ニック・バレロンガ)が加わっている。
    トニーはイタリア系移民の子孫で、柄の悪いブロンクスで育った。本名はバレロンガだが、ほとんどの人には発音しにくいため「トニー・リップ」(口がうまいからというのが理由)で通している。「イタ公」呼ばわりされて相手をぶん殴る場面が2度も出てくるほどの乱暴者である。かたや、ドク・シャーリーは幼い頃にピアノの才能を見いだされ、レニングラード音楽院にて初の黒人学生として学び、今やカーネギー・ホールの階上に住む大金持ちのエリートである。
    そんな二人がいきなり仲良くなれるわけもなく、道端に落ちていた翡翠のアクセサリーをネコババしたトニーをドクは厳しく叱る。本場のケンタッキーフライドチキンを食べさせられると、チキン骨どころかドリンクの空コップを窓から投げ捨てたトニーに、わざわざ車をバックさせてまで拾わせる。
    こうも育ちの違う二人だったが、トニーはトニーでドクのピアノの腕前に舌を巻き、ドクは妻ドロレスへの手紙をまめに書くトニーに美しい文章を授けて助けるなど、互いの信頼は徐々に篤くなる。(ドクの言葉で語るトニーからの手紙を読みながらうるっとするドロレスが可愛い。)
    「グリーンブック」とは、当時グリーン氏が書いて出版していた、黒人が南部で安全に宿泊などできる旅行ガイドブックのことであるが、旅が進むにつれドクはガイドとはかけ離れた汚い安宿に当たったりもする。そして、一人でバーに入れば白人の若者たちにつるし上げをくらい、スーツを試着しようとすれば断られ、コンサート会場でもトイレは庭のボロ小屋を案内されるという屈辱に遭う。それら差別にひたすら黙って耐えるドクと、時にはこぶしをふるって彼を守るトニー。
    ニューヨークにいれば2週間でこの8週間のツアーの3倍を稼げるはずなのに、なぜドクはこうしているのか。それは、さかのぼること6年前に南部で黒人音楽家がステージから引きずり下ろされ袋叩きに遭った事件を踏まえ、「才能だけでは不十分だ、勇気が人を変える」という信念に基づく行動であったからだ。彼には分かっていた。南部の白人の観客は「自分には教養と上品さがある」と思い込みたいがために黒人の自分の演奏へ賛辞を送るのだ、と。そして偏見を変えるには暴力は決して益にならないということ。そのため、トニーの問題解決能力を高く評価しつつ彼の粗暴なふるまいを抑えていたのであった。
    「イタ公」呼ばわりしてきた警官をトニーがぶん殴って二人とも留置所にぶち込まれた際、ドクは何と司法長官だったロバート・ケネディに電話をかけ釈放を勝ち取る。だが、ドクはそれを「恥だ」と言う。世の不正を正そうとしている人物にこんなつまらないことで手をわずらわせた、と。「そういうのなら俺はあんたより黒人だよ!」とトニーが言えば、スイッチが入ったかのように車から降り、豪雨の中「私は黒人でも白人でもない、男かどうかも定かではない、私は一体何なんだ!?」とトニーに叫ぶ。(ドクはYMCAプールで白人男性と「いちゃついていて」拘束されたところをトニーの“袖の下”で救われた。おそらく同性愛者でもある。) エンストを修理している最中に畑を耕す黒人たちからドクにそそがれていた冷たいまなざしが思い出される。
    ツアー最後の会場でレストランに入ることを断られ、支配人に激昂するトニーを、ドクは「いいんだ、私は弾く」と止めるが、トニーは「こんなとこ、ずらかろうぜ」とドクを外へ連れ出す。場末のバーでショパンの練習曲を弾き、地元のバンドと楽しげにセッションをするドク。ニューヨークへの帰路は大雪で、トニーはすっかり疲れてしまうが、ドクが代わりにハンドルを握るのだった。トニーが隠し持っていた翡翠のアクセサリーをお守りに。クリスマスパーティーの自宅で大勢の家族に囲まれるトニーと、カーネギー・ホールの大広間にひとりぼっちのドク。親戚に「ニガーはどうだった?」と訊かれ「ニガーはよせ」と言うトニー。そこへひょっこりと現われるドク。「紹介するよ、ドクター・ドナルド・シャーリーだ」。一瞬場が凍るが、「何してんだ、早く席と皿を準備しろ!」と誰かが言う。ドクを抱きしめるドロレス。「はじめまして、手紙をありがとう」。ドクは少々驚きつつも微笑む。「メリー・クリスマス」。
    ドクはその後も演奏活躍を続け、あのストラヴィンスキーから絶賛を受けた。トニーは働いていたナイトクラブのオーナーとなった。二人の友情は終生続き、2013年にほんの少しの差で共に世を去った、という。
    人種も育ちも立場も違う中年男性の篤い友情は見ていて爽快であった。「黒人問題とLGBT問題を入れておけば白人の審査員からの票が入り賞をもらうのは今や必然だろう」という意地悪な声もあるが、人種問題や性の問題を抜きにしてもこれは痛快なロード・ムービーとして楽しめると思う。トニーがドクの手を借りて書いたドロレスへの手紙にあった通り、秋から冬へと向かうアメリカ南部の風景はとても美しかった。現在コロナ禍であるが、久しぶりに旅に出たくなった。

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