estwald2002のブログ

主に映像作品の感想文を書いていきます

映画「トップガン マーヴェリック」感想

  • 2022年、アメリ
  • 監督:ジョセフ・コシンスキー
  • 主演:トム・クルーズマイルズ・テラージェニファー・コネリージョン・ハム、グレン・パウエル、ルイス・プルマン、モニカ・バルバロ、バル・キルマー、チャールズ・パーネル

  • あらすじ:
    前作「トップガン」から36年。かつての若き米海軍エースパイロット、マーヴェリックは未だに昇進を拒みマッハ10を超えるフライトテストに挑んでいた。そんな彼に緊急の指令が下る。「ならずもの国家」の核プラントが稼働する前にそれを破壊しろ、12人のエリート”トップガン”達を鍛え上げろ、期限は3週間、というものだった。その中には、かつて失った同僚グースの息子ルースターもいた。ことごとく衝突するマーヴェリックとルースター。到底不可能と思われる困難なミッションは果たせるのか、そしてトップガンは全員帰還できるのか?

  • 感想:
    1986年に前作が公開されているので、私は当然観に行っていてしかるべきところだが、実は見ていない。だが、IMAX字幕で「~マーヴェリック」を観て十分堪能することができた。まず、OPの発艦シーンがいい。緊張感ただよう中甲板作業員達がサインをしながら手際よく準備をする。彼らもまた主役であろう。
    そして、今年59歳になるというトム・クルーズ。「そんな歳に見えない!!」。本当に還暦一歩前か?! しかも実力で2分15秒のミッションをクリアして大将以下トップガンの若手達も黙らせてしまう凄さ。
    彼女といい仲になるジェニファー・コネリーも色気のある中年女性で、惚れてしまいそうだ。マーヴェリックがジェニファーの娘に夜這いを見つけられたところでは笑った。
    さて、私は戦闘機には全く詳しくないのだが、今回のミッションではその困難さゆえに旧式のF-18が選ばれた。訓練、そして実戦でIMAXの大画面を縦横無尽に飛び回る戦闘機は本当にかっこいい。リアリティを追求するためにここではIMAXカメラをコクピットに入れて撮影もしている。また、Gを感じさせるシーンでは本当に役者を使っている。
    女性パイロットのモニカ・バルバロの色っぽさに惹かれた。そして冴えない風体をしているが爆撃補佐のルイス・プルマンのいざという時の頼りになること。最後にマーヴェリックとルースターを救ったハングマンのジョークでホッとした。
    そして、上官たちには鼻つまみ者のマーヴェリックを本作戦に推薦したアイスマン大将。彼を演じたバル・キルマーは現実に喉頭がんを患っており、本作でもキーボードとディスプレイでマーヴェリックと会話する。2、3回しゃべった声は、肉親の声を加工したものであるという。彼の立派な葬儀には厳粛な思いをさせられた。
    まだ上映中なのでネタバレを避けるが、敵地で生き残ったマーヴェリックとルースターの取った作戦は破天荒で、本当に大丈夫か!?と思わされた。「骨董品」F-14があれほど頼りになるように見えたのも初めてである。「無線のヒューズを開け」「300個あるスイッチのうちどれだ?」「お前の親父に聞け」には笑った。第5世代の最新鋭の敵機との戦闘が終盤の見どころである。
    おそらく「ならず者国家」とは暗にイランを指しているのだろうが、そんな現実はここではおいておいていいだろう。これはエリートパイロット達の活躍を描いた壮大なフィクションであるから。

    次は吹き替えでMX4Dで観たい。

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映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」感想

  • 2014年、イギリス・アメリ
  • 監督:モルテン・ティルドゥム
  • 主演:ベネディクト・カンバーバッチキーラ・ナイトレイマシュー・グードマーク・ストロング、アレン・リーチ、チャールズ・ダンスロリー・キニア、アレックス・ロウザー

  • あらすじ:
    1952年。ケンブリッジ大学の数学教授チューリングの自宅に泥棒が入った。チューリングの態度に不審なものを感じたノック刑事は彼の裏を取ろうとするが、第二次世界大戦中の彼の軍歴は一切残されていなかった。ノックは取り調べ室でチューリングと向かい合う…。
    1939年、ナチス・ドイツと戦争状態に入ったイギリスは、若き天才数学者チューリングほか数名を集め、ドイツが誇る強固な暗号「エニグマ」を解読する極秘プロジェクトに従わせた。仲間と打ち解けようとせず、一人で解読マシンを開発しようとするチューリングに、周囲は敵意すら見せる。しかし、公募で招き入れた女性ジョーンの理解と助力により、仲間内の溝は埋まる。難攻不落かと思われたエニグマは、ふとしたきっかけでついに解読できた。しかし…。

  • 感想:
    「コンピューターの父」とも呼ばれるアラン・チューリングを主人公にし、一部脚色を加えた映画である。人力で計算すると解読に2000万年かかるエニグマギリシャ語で「なぞなぞ」の意味)。これを一瞬で解くマシンの開発に、チューリングは没頭した。人の言葉の裏が読めない彼は当初チームで孤立するが、自分のマシンに絶対の自信を持っていたこととジョーンからの親切な助言もあって、チームは次第に彼のマシン開発に集中するようになる。
    海軍中佐に言い渡された期限ぎりぎりでの解読成功は、スリリングで爽快だった。しかし、解読に成功しても直ちに軍に報告するわけにはいかなかった。英米の船を狙うドイツの潜水艦Uボートを、もし突然空襲で魔法のように沈めてしまったら、エニグマが破られたことを相手に悟られてしまうからである。もう一人の上官で情報部MI6のエージェントであるミンギスをチューリングは頼る。エニグマ解読成功は自国にも他国にも秘密にし、マシンから得られたドイツ軍の情報は統計的に処理して、味方のどこを犠牲にするか救うかを選択し、戦況を有利に導くこと。そのためのニセ情報を流して欲しい、と頼むチューリングとジョーン。ミンギスは言う、「私はこんなことはめったに言わないが、君は私の期待通りの男だ」。この第2のプロジェクトには「ウルトラ」という名が付けられ、MI6が作った虚実入り混じった情報が内外に意図的に流され、ドイツに占領された諸外国の解放や、歴史的な「ノルマンディー上陸作戦」の成功を導いた。のちの歴史家の考察では、チューリングの働きは、第二次世界大戦終結を2年以上早め、1400万人の命を救った、とみられている。
    しかし「義理人情を重んじる」日本人の一人としては、こんな手を血に染めるような諜報活動はとてもじゃないが出来ないな、と思った。さすが一時は世界の四分の一を支配した大英帝国である。
    マシンの名は「クリストファー」。チューリングが寄宿学校生活をしていた頃の唯一の友人、いや初恋の相手の名前である。実はチューリングは同性愛者で、当時の英国では法律により投獄されるかホルモン投与による治療を受けるしか生きる道はなかった。戦後はクリストファーの改良に没頭していたチューリング。1952年、買った男娼が自宅に泥棒に入ったことで、彼の性的嗜好が警察に明るみに出てしまう。担当したノック刑事は、極秘であるエニグマとウルトラの話を聞かされ、絶句する。チューリングは英雄か、犯罪者か。わいせつ罪で逮捕された彼を報じる新聞記事に向けるノックの視線は複雑であった。
    チューリングはクリストファーとい続けられるためにホルモン投与を受ける方を選び、1954年に41歳で自殺した。エニグマ解読プロジェクトの事実が英国政府から公にされたのは、戦争終結から実に50年以上も経ってからのことであり、エリザベス女王は2013年、チューリングに死後恩赦を与え彼の業績を称えた。同性愛を罪としていた法律は1967年まで続き、犯罪者として処分された国民はのべ4万9000人に及んだという。
    近年「キャロル」(2015年)や「ムーンライト」(2017年)など、同性愛を肯定的に扱った映画が評価されている。「誰も予想さえしなかった人物が、誰も想像しなかった偉業を成し遂げることだってある」。若くして亡くなったクリストファー少年の言葉が、作中で3度繰り返される。対人関係を築くのが不得手で同性愛者であるという秘密も抱えていたチューリングに限らず、「普通でない」ことを恐れず自由に生きられる社会が発展するといいと思う。
    なお、「イミテーション・ゲーム」とは現在「チューリング・テスト」として知られるもので、「審判者が対象に向かっていくつかの質問をし、返ってきた答えが人間ともマシンとも判断できなければ、その対象は人間である」という思考実験である。
    脚本を担当したグレアム・ムーアは、第87回(2015年)アカデミー賞で脚色賞を受賞した。「WIRED」誌の記事によると、ムーアはティーンエイジャーの頃からチューリングに関する事柄に取りつかれるようになり、この作品が映画化されると決まった際は、無償で脚本を書くと申し出たそうである。

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映画「オーシャンズ11」感想

  • 2001年、アメリ
  • 監督:スティーブン・ソダーバーグ
  • 主な出演:ジョージ・クルーニーブラッド・ピットジュリア・ロバーツマット・デイモンアンディ・ガルシアエリオット・グールド、他

  • あらすじ:
    凄腕の泥棒かつ詐欺師で、骨董品を盗んだ罪で服役していたダニー・オーシャンは、4年の刑期を終えて仮釈放された。ダニーはさっそく昔の仲間のイカサマポーカー師ラスティと落ちあい、ラスベガスの三大カジノの金が集まる警備厳重な巨大金庫を狙う計画を立てる。二人は、金庫の持ち主である冷酷なホテル王ベネディクトに恨みを持つ元カジノ経営主ルーベンから資金援助を取り付け、次々と仲間を集める。手癖の悪いディーラーのフランク、爆弾魔のバシャー、機械操作に強いモロイ兄弟、優秀な電気エンジニアのリヴィングストン、見事な曲芸師のイエン、胃潰瘍持ちの往年の詐欺師ソール、伝説的な泥棒を父に持つ名スリ師ライナス。彼らはボクシング世界タイトルマッチが行われる土曜日の夜に、1億6000万ドルの現金を狙ってハイリスク・ハイリターンの仕事に向かう…!

  • 感想:
    この映画はフランク・シナトラ主演「オーシャンと11人の仲間」(1969年)のリメイクだそうだが、そちらは見る手段がないのでこの映画だけの評価をすると、痛快なクライム・アクション映画である。ストーリーは単純明快でどんでん返しもあり、かつ人も死なないので、難しく考えずに豪華キャストを見て楽しむのに合っている。(ソダーバーグ監督もインタビューで「これは観客が2時間を楽しく過ごすためだけに作られた映画だよ。映画館を出るころには、みんな映画のことなんてさっと忘れて『これから、なに食べる?』なんて会話を交わすような、ね(笑)」と語っている。) 決行の日が近づくにつれ、小さなトラブルが次々と起こるが、彼らは見事それらを克服していく。特に、ベネディクトの愛人となっていたダニーの元妻のテスについて、「あんた、この計画は元嫁さんと縒りを戻したいのが目的じゃないか?」と仲間たちが疑い、一時ダニーがチームから外されるが、それすら計画の内だったというのが面白かった。唯一不満な点といえば、そのテスがダニーに離婚届を送るほど彼に愛想を尽かせていたというのに、ダニーが「金を払うからテスを返せ」と言ったのに対しベネディクトが了承したのを監視カメラの映像で見てコロッと心変わりするところだった。ラストでは、テスは結婚指輪をつけてまでダニーの出所を待っている。彼女のキャラクター作りはちょっと安易すぎやしないだろうか。

    最後はダニー、テス、ラスティの乗ったクルマをベネディクトの用心棒らのクルマが尾行するところで終わっている。軽い余韻を感じさせるエンディングであった。

    この作品のヒットにより、ほぼ同じメンツが出演する続編「オーシャンズ12」(2004年)、「オーシャンズ13」(2007年)、そしてスピンオフとして「オーシャンズ8」(2018年)が製作された。


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映画「コンタクト」感想

  • 1997年、アメリ
  • 監督:ロバート・ゼメキス
  • 主演:ジョディ・フォスターマシュー・マコノヒージョン・ハートジェームズ・ウッズトム・スケリットウィリアム・フィクトナーアンジェラ・バセットデビッド・モース
  • あらすじ:
    天文学者のエリーは「宇宙人は必ずいる、人類にコンタクトしてくる」と強く信じ、電波望遠鏡であらゆる方角のノイズを聞いていた。だが上司のドラムリンからたびたび妨害を受ける。プロジェクトが危機に陥ったまさにそんな時、26光年離れたこと座のヴェガから信号が届く。解析するとそれは一人乗りの輸送船の設計図であった。乗員に立候補するエリーだが、神を信じていないという理由で落選し、ドラムリンが乗員に選ばれる。しかし輸送船のテスト中、狂信的なテロリストの自爆により装置は粉々に砕け散ってしまう。落胆するエリーのところに、今まで彼女に資金援助をしてきた謎の富豪ハデンが、密かに北海道に建設していたもう1台の輸送船に乗らないか、と誘う。果たしてエリーはヴェガで何を見るのか。宇宙人の目的は一体…。
  • 感想:
    原作はSETI(地球外知的生命探査)の推進者としても有名な天文学者カール・セーガンの小説。彼もこの作品の製作に加わっていたが、残念ながら完成を見ることなく世を去った。エンドクレジットの前には「FOR Carl」と記されている。本作はSF映画であるが、「人間は科学だけで幸福になれるのか」「科学は宗教を否定するのか」という深いテーマを描き出している。エリーは幼い頃から数学や物理学に大変秀でた成績を修めたが、一方で「データのないものは存在しない」「子供の時父親が発作で死んだのは神の思し召しなどではなく自分が薬をそばに置いてなかったから」と信じ込んでいた。まるで彼女の「宇宙人は存在する」という狂気に近い信念がヴェガからの信号を呼び寄せたかのように見えた。そして、エリーと複雑な恋の関係にあったパーマーは、思想的にエリーと対極にあるといってもいい神学者。「神がいない世界なんて想像したくない」と言うパーマーにエリーは「思い込みでは? 私は証拠がないと」と返すが、「君はお父さんを愛していると言ったが、その証拠は?」とパーマーに言われて絶句する。「物心ついた頃から『人間は何なのか、なぜここにいるのか』答えを求めていた。その答えの一端でも分かるなら命を懸ける価値がある」と言ったエリーに、パーマーが乗員選考委員会で「あなたは神を信じますか?」とわざと質問し、エリーが「データのないものは信じません」と正直に陳述して落選する一方で、それまでさんざんエリーの邪魔をしてきたドラムリンがうわべだけの信仰を口にして乗員に選出されたのには、「お前ずるいだろ!」とツッコミを入れたくなった。だが、宗教テロリストによって輸送装置が破壊され、ドラムリンも亡くなった時は、エリーに心底同情した。そこに手を差し伸べたのは、世界企業ハデン社の総帥ハデン。パーマーに「本音は君を放したくなかったからだった、必ず帰ってくるね?」と抱きしめられて、第2の装置からエリーは深宇宙へと旅立つ。彼女はワームホールを次々と抜け、穏やかな浜辺で目覚める。そこで出会ったのは、死んだはずの父親だった。それは宇宙人がエリーの記憶から再生した姿だった。「君たちは興味深い、複雑な種だ。美しい夢を追う力がある、破滅的な悪夢も描く。我々は気づいたんだ、宇宙で貴重なのはお互いの存在なのだと。これは第一歩だ。帰りなさい、またいつか」と宇宙人が話したところでエリーは地球に帰還する。しかし、地上ではエリーはたった1秒以下しか消えておらず、誰も彼女の体験談を信じなかった。彼女は査問会で訴える。「証拠は何もありません。しかし私は体験しました。人類がいかに小さく、そして貴重なものかを教えられました」と。そんなエリーを歓呼して迎える大勢の群衆。パーマーは「科学と宗教の違いはありますが、追い求めるものは一つ、真実の探求です。僕は彼女を信じる」と報道陣に胸を張って言う。一方で彼女のビデオカメラを解析すると、18時間分のノイズが記録されていたのだった…。エリーには予算が付けられ、さらに台数の増えた電波望遠鏡で研究を続ける。あれは夢だったのか、現実だったのか。地上の砂をすくい、思いにふけるエリー。
    ヴェガからの信号を検知したシーンは本当にわくわくして何度も見たくなる。また、その信号が一見ベルリン・オリンピック開会式のヒトラーの演説映像だったというのも、光の速度の時差を考えてよく作られたお話だったと思う。
    この作品にはこれでもかというほど多数のテレビモニターが登場しており、未来的なセッティングがなされている。また、ゼメキス監督の前作「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1995年)と同様、実在の人物の映像素材が利用されており、大統領役に使われたクリントン大統領(当時)からは「勝手に加工して使わないで欲しい」との苦情が来たと聞く。そして、映像加工には当時発売されて間もないPhotoshopも使われており、民間向けソフトでも劇場映画のレベルに十分耐えるようになったことを示している。

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映画「グリーンブック」感想

  • 2018年、アメリ
  • 監督:ピーター・ファレリー
  • 主な出演:ビゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
  • 受賞歴:
  • あらすじ:
    1962年、ニューヨーク。粗野で無教養だが愛妻家でハッタリがお得意のトニーは、高級ナイトクラブで用心棒として働いていた。クラブが改装工事に入ったため失業したところに「うまい儲け話」が入る。黒人のピアニスト、ドクター・シャーリーが南部へのコンサートツアーに出かける際のドライバー兼身の回りの世話係にならないか、というのだ。黒人に偏見を持っていたトニーは一度は断るが、「君の言い値で雇う」というドクの申し出を受けることにする。トニーががさつな雑談をするたびにそれを諫めるドクという珍道中。ドクのピアノは天才的で、各地のコンサートで拍手喝采を浴びる。水と油の関係に思えた二人も徐々に分かり合えるようになっていく。しかし深南部へと入るにつれドクへの黒人差別はあからさまになり…。

  • 感想:

    これは実話を元にした作品で、脚本にはトニーの実の息子(ニック・バレロンガ)が加わっている。
    トニーはイタリア系移民の子孫で、柄の悪いブロンクスで育った。本名はバレロンガだが、ほとんどの人には発音しにくいため「トニー・リップ」(口がうまいからというのが理由)で通している。「イタ公」呼ばわりされて相手をぶん殴る場面が2度も出てくるほどの乱暴者である。かたや、ドク・シャーリーは幼い頃にピアノの才能を見いだされ、レニングラード音楽院にて初の黒人学生として学び、今やカーネギー・ホールの階上に住む大金持ちのエリートである。
    そんな二人がいきなり仲良くなれるわけもなく、道端に落ちていた翡翠のアクセサリーをネコババしたトニーをドクは厳しく叱る。本場のケンタッキーフライドチキンを食べさせられると、チキン骨どころかドリンクの空コップを窓から投げ捨てたトニーに、わざわざ車をバックさせてまで拾わせる。
    こうも育ちの違う二人だったが、トニーはトニーでドクのピアノの腕前に舌を巻き、ドクは妻ドロレスへの手紙をまめに書くトニーに美しい文章を授けて助けるなど、互いの信頼は徐々に篤くなる。(ドクの言葉で語るトニーからの手紙を読みながらうるっとするドロレスが可愛い。)
    「グリーンブック」とは、当時グリーン氏が書いて出版していた、黒人が南部で安全に宿泊などできる旅行ガイドブックのことであるが、旅が進むにつれドクはガイドとはかけ離れた汚い安宿に当たったりもする。そして、一人でバーに入れば白人の若者たちにつるし上げをくらい、スーツを試着しようとすれば断られ、コンサート会場でもトイレは庭のボロ小屋を案内されるという屈辱に遭う。それら差別にひたすら黙って耐えるドクと、時にはこぶしをふるって彼を守るトニー。
    ニューヨークにいれば2週間でこの8週間のツアーの3倍を稼げるはずなのに、なぜドクはこうしているのか。それは、さかのぼること6年前に南部で黒人音楽家がステージから引きずり下ろされ袋叩きに遭った事件を踏まえ、「才能だけでは不十分だ、勇気が人を変える」という信念に基づく行動であったからだ。彼には分かっていた。南部の白人の観客は「自分には教養と上品さがある」と思い込みたいがために黒人の自分の演奏へ賛辞を送るのだ、と。そして偏見を変えるには暴力は決して益にならないということ。そのため、トニーの問題解決能力を高く評価しつつ彼の粗暴なふるまいを抑えていたのであった。
    「イタ公」呼ばわりしてきた警官をトニーがぶん殴って二人とも留置所にぶち込まれた際、ドクは何と司法長官だったロバート・ケネディに電話をかけ釈放を勝ち取る。だが、ドクはそれを「恥だ」と言う。世の不正を正そうとしている人物にこんなつまらないことで手をわずらわせた、と。「そういうのなら俺はあんたより黒人だよ!」とトニーが言えば、スイッチが入ったかのように車から降り、豪雨の中「私は黒人でも白人でもない、男かどうかも定かではない、私は一体何なんだ!?」とトニーに叫ぶ。(ドクはYMCAプールで白人男性と「いちゃついていて」拘束されたところをトニーの“袖の下”で救われた。おそらく同性愛者でもある。) エンストを修理している最中に畑を耕す黒人たちからドクにそそがれていた冷たいまなざしが思い出される。
    ツアー最後の会場でレストランに入ることを断られ、支配人に激昂するトニーを、ドクは「いいんだ、私は弾く」と止めるが、トニーは「こんなとこ、ずらかろうぜ」とドクを外へ連れ出す。場末のバーでショパンの練習曲を弾き、地元のバンドと楽しげにセッションをするドク。ニューヨークへの帰路は大雪で、トニーはすっかり疲れてしまうが、ドクが代わりにハンドルを握るのだった。トニーが隠し持っていた翡翠のアクセサリーをお守りに。クリスマスパーティーの自宅で大勢の家族に囲まれるトニーと、カーネギー・ホールの大広間にひとりぼっちのドク。親戚に「ニガーはどうだった?」と訊かれ「ニガーはよせ」と言うトニー。そこへひょっこりと現われるドク。「紹介するよ、ドクター・ドナルド・シャーリーだ」。一瞬場が凍るが、「何してんだ、早く席と皿を準備しろ!」と誰かが言う。ドクを抱きしめるドロレス。「はじめまして、手紙をありがとう」。ドクは少々驚きつつも微笑む。「メリー・クリスマス」。
    ドクはその後も演奏活躍を続け、あのストラヴィンスキーから絶賛を受けた。トニーは働いていたナイトクラブのオーナーとなった。二人の友情は終生続き、2013年にほんの少しの差で共に世を去った、という。
    人種も育ちも立場も違う中年男性の篤い友情は見ていて爽快であった。「黒人問題とLGBT問題を入れておけば白人の審査員からの票が入り賞をもらうのは今や必然だろう」という意地悪な声もあるが、人種問題や性の問題を抜きにしてもこれは痛快なロード・ムービーとして楽しめると思う。トニーがドクの手を借りて書いたドロレスへの手紙にあった通り、秋から冬へと向かうアメリカ南部の風景はとても美しかった。現在コロナ禍であるが、久しぶりに旅に出たくなった。

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